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モンマルトルの丘の上、昨年MOF(フランス国家最優秀職人賞)を獲得した人気パティシエ、アルノー・ラエールのアトリエで研修生として修業に励む、大阪出身のAkikoさんにお話を伺いました。(2008-03-17)
 
日本では全く異なる職業についていたそうですが、パティシエになりたいと思ったきっかけは?
日本での仕事は本当にパティシエとはかけ離れた分野でした。10年弱続けていたのですが、どうしても自分に合わないと感じるようになったんです。本当に忙しくて、毎日終電やタクシーで帰る日々を過ごすうちに、「これを一生続けていくのは無理だ」と思うようになって。それから、他に自分のやりたいことを考え直してみたんですね。
日本から持ってきたり友人から
もらったというお菓子の本や雑誌

パティシエという結論はけっこうすぐに出た?
そうですね、もともと、とにかく食べること、特にスイーツやパンが大好きで。たとえばバレンタインの時期になると自分用の予算を組んでチョコレートをたっぷり買ったり、仕事で東京出張があれば大阪で見つからないものを何万円分も買い込んだりしていました。会社の机の引き出しもお菓子でいっぱい。だから、お菓子かパンの道に進むことについてはあまり迷いませんでしたね。

すぐに海外留学を考えたんですか?
最初は普通に日本の製菓学校に通おうと思っていました。が、同時期に料理で海外留学したい、という友人と話をして、「留学という選択肢があったな」と気がついたんです。行くなら食べ物が美味しいところ、ということでフランスかイタリア。そしてやはりお菓子を勉強するなら・・・ということで行き先をフランスに決めました。

そうしてパリに降り立ったのが2006年9月。パリに着いたときの感慨は?
もっと感動するはずだったんですけど、案外淡々とした思いでした。でも着いた初日から早速パリの街を歩き回りましたよ。最初の2ヶ月はホームステイ。ステイ先はパリ15区で、一人暮らしのマダムとアメリカ人学生、そしてたまに泊まっていく息子さんがいました。

その時、フランス語のレベルはどんな程度だったんですか?
フランス行きが決まってから、日本で週に1回フランス語のレッスンを受けてはいましたが、挨拶ができて、ほんのちょっと言ってることの意味がわかる程度でした。ステイ先ではアメリカ人の子がよく話せたので、聞き役に回っていることがほとんど。パリに来てからは半年ほど語学学校に通いましたが、やはりステイ先と学校で毎日フランス語に囲まれていると、必然的に理解力はアップしますね。逆に自分が話すほうはなかなか・・・性格にもよると思いますね。どちらかというと無口なほうなので・・・。

2ヶ月のホームステイの後、パリでのひとり暮らしがスタートしたんですね。
ステイ中に部屋探しを始め、日本人スタッフのいる不動産会社で、初めて紹介してもらった物件を見て、一発で決めました。何よりも、お目当てのパティスリーまで歩いていけるのが大きなポイントでした。
 

お目当てのパティスリーとは?
日本で大好きだった東京・自由が丘にある「パリ セヴェイユ」というパティスリーがあるんですが、そこのシェフが以前修業されたことがあって、ケーキに名前もついているアルノー・ラエールというお店のことです。ぜひその店で修業がしたい、たとえできなくても、せめて近くに住んで買いに行きたい、という一心で、モンマルトルのアパルトマンを探したんです。

しかも、お住まいのアベス駅界隈は古き良きパリの面影が残っていて、とてもいい感じですよね!映画「アメリ」に出てきた食品店もすぐ近くですし。さて、半年の語学学校の後、ついにコルドン・ブルーに入学されるわけですね。
2007年3月末から、お菓子のディプロムコース(初級・中級・上級)をとりました。大まかには、先生が実際にお菓子を作るデモの授業、そして、実際に自分が作る実習の2つに分かれています。学校からもらえるのはレシピだけなので、先生が教えてくれるコツはすべてメモをして大事にとってありますよ。

実習では分担するのではなく、本当に一人一人が作るんですか?
日本でお菓子とパンのレッスンに通っていたときは、手を止めながらみんなで作っていくやり方でしたが、コルドンでは長い大理石の調理台の上をおのおのが陣取って作ります。当然のことながら人それぞれにスピードが違ったりもするので、周りを気にせず、自主的に進めていくのが大事ですね。同じクラスには既に自分の国でパティシエとして働いた経験のある人(こういう人は作業が速い!)や、今後店を持ちたいと考えている人も多かったです。

コルドン・ブルーでもらう
お菓子のレシピ・ファイル

授業中に聞いた内容を
メモしたノートは今も大事に

絵入りできれいに
書かれています

 
コルドン・ブルーのユニフォーム。研修でもこれを着ているそうです。
上級クラスを終了すると、希望のパティスリーでのスタージュ(研修)ができるんですよね。
はい、学校の先生と面接して、自分の希望を伝えました。私は第一希望がアルノー・ラエール、第二希望がピエール・エルメ。それ以外はなし!と強気で攻めたんですが、面接のその場でアルノー・ラエールに電話してくれ、あれよあれよという間に無事、第一希望のお店での研修が決定しました。

本当に夢を叶えてしまったんですから、すごいですね!
アルノー・ラエールでの研修は、コルドン・ブルーのユニフォームと調理用の靴だけを持ってきなさいと言われ、2007年12月からスタートしました。チョコレートとパティスリーの2部門に分かれているんですが、私は有無を言わさずチョコレート担当に。てっきりケーキを作るものだと思っていたので少し驚きましたが、もともとチョコレート大好きだし、良い機会だと思って受け入れました。

コルドン・ブルーで実際にAkikoさんが作ったお菓子やパン
洋梨のシャルロット 全部チョコレートでできた
チョコレート細工
クロワッサン

ではチョレート部門の典型的な一日を教えてください。
5h30 起床
6h15 家を出発
6h25 お店に到着、着替えなど
6h30 作業開始
→火・水・木はガナッシュ作り、金・土はコーティング。余った時間にマンディアン(チョコレートにドライフルーツを載せたもの)やギモーヴ(マシュマロ)、パート・ドゥ・フリュイ(フルーツゼリー)などを作る。
14h〜18h 帰宅
私が研修をスタートしてからはノエルからイースターまで、イベント続きなのでなかなか忙しいですね。でも早々と帰れる日もあったりして、本当に日によります。

周りの同僚とはうまくいっていますか?
チョコレート部門にはハタチそこそこのフランス人男子が2人。研修に来て右も左もわからない私にいろいろ教えてくれました。気軽に軽口をたたいたり、下ネタで盛り上がったり(笑)、楽しくやっています。でも、よく考えてみれば、あの若さでこんなに早起きして働いているというのは本当にエラいですよね。 

アルノー・ラエールのチョコレートのワザ(?)が盗めましたか?
ワザが盗めたかどうかはわかりませんが、レシピはいつもその場でメモしてますね。メモだけで小さな箱がいっぱいになるくらい。 

憧れだったお店で研修してみて、今、どんなことを感じていますか?
研修をして、ある意味、裏側を見た今も、やはり「美味しい」と素直に言えますね。シェフは優しい人ですが、やはり目の前にすると緊張します。とにかく作業が速くて正確で、さすがです。 

ではアルノー・ラエールの個人的なオススメを教えてください。
チョコレートだと、キャラメル入りやパッション・フルーツ入りがオススメです。フルーツ味のチョコレートとか、ギモーヴ(マシュマロ)とか、プラリネとか、日本ではあまり好んで食べなかったものの美味しさを、こちらで実感しているところです。
あとはブルターニュ出身シェフだからこそのクイニーアマンの美味しさは絶品。
それからケーキではサントノレのキャラメルですね。金・土限定で、しかも季節によってはキャラメル味がないのでご注意を。 

研修は今年の5月末までとのことですが、その後についてはどのように考えていますか?
今、ちょうど悩んでいるところです。こちらでやり残したことはないか?と考えてみたら、お菓子と同じくらい好きなパンの学校に通ったことがないことを思い出して。フランスといえば、パンも素晴らしいですからね。というわけで、短期でパンの学校に通えたらと考えています。そして日本に帰った暁には、自分の好きなお菓子屋さんやパン屋さんで働けたらいいですね。

話題は変わって、パリに暮らす日本人として、「これだけはどうにかしてくれ!」と思うことは?
同じような境遇の人がたくさんいると思いますけど、とにかく滞在許可証の取得や更新の手続きがとても面倒くさい!きちんと書類を出したのに「ありません」と言われて呼び出されたり、本当にどうにかしてほしいですね。
あとは、家の水漏れ・・・大家さんに頼んだら、なんと1ヵ月後に修理の人が来ました。いかにもフランスっぽいエピソードですよね。
そして道に落ちている犬のフン!ずっと踏んだことがなかったのに、ここ1ヶ月で2回も踏んづけてしまって恨めしい気持ちです。

逆に、これがあるからパリ最高!と思う点は?
バターやチーズなどの乳製品が安くて美味しい!いわゆる有名なショコラティエのチョコレートも、日本に比べると半額程度なので幸せです。それから普段通っている、バルベス(編集部注:アフリカ系住民の多いとても庶民的な地区)のマルシェが素晴らしいです。ものすごい人ごみで、人と密着しながら移動する感じですが、とにかく果物も野菜も新鮮で安い。
あとは月並みですけど、パリの街並みが好きですね。故郷の大阪に比べて公園や緑も多いし、いつ歩いても「きれいだな」と思えます。

最後に、同じようにフランスでパティシエ修業をしたいと考えている方々にアドバイスがあれば。
研修は基本的に無給です。パリ市内は日本の大都市並みに家賃が高いし、しかもユーロ高なので、とにかく生活資金はしっかりと貯めてくることをオススメしますね。美味しいものがいっぱいの街なので、倹約生活だけではもったいないですから。
フランス語は事前に勉強できればそれが一番ですね。でも現地に来てからのほうが、必要に迫られて身についていくので、そんなに心配しなくても大丈夫かも。
それからパティシエの仕事は想像以上に重労働。最初の1週間は腕が筋肉痛になったし、今でも、一人ではボウルが持ち上げられなくて同僚に助けてもらうこともあります。ただでさえ生活が変わって体調を崩す人が多いので、体力は大事ですね。

今日はありがとうございました!
 

編集部より
日本にいた頃はコンビニやスーパーのチョコでも十分満足していたのに、本場の味を知ってしまった今、高級チョコレートじゃないと満足できない舌になってしまったのではないかと思うと、日本に帰るのが心配、と語るAkikoさん。逆に、学んだ本場の味をぜひ、日本でも再現していただきたいですね。フランスでパティシエ修業をしてみたいという方は数多いと思いますが、このインタビューが少しでもお役に立てれば幸いです。なお、Akikoさんの修業先、
アルノー・ラエールはカイエ・ド・パリ編集部著 「パリでひとりごはん」でもご紹介しています。もうすぐカイエ・ド・パリにも登場させますのでお楽しみに。
 

Akikoさんが作った薔薇の飴細工。美しいですね!

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