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きっかけは、取材で訪れたマドレーヌ広場近くのホテル・ル・ヴィニョンでした。オーナーから、「うちのお花はすべて日本人に頼んでいて、とても気に入っているのよ」と聞かされ、パリ6区で花屋さんを営むYoshika Yamamotoさんの存在を知ったのでした。料理人やパティシエの世界では日本人の活躍が著しいパリですが、花屋さんというのはまだまだ珍しい!ということで、お忙しいなか、インタビューに答えていただきました。(2008-04-27)
 
ご出身は九州・福岡とのことですが、日本でお花の勉強をしてきたのですか?
高校に行きながら専門学校に通い、NFD(フラワーデザイナー資格)をとりました。それから某電話会社に就職してからは、夕方まで会社で働き、夜はフラワーアレンジメントの教室の先生をしていました。授業が終わるのが夜の11時ごろで、その後に次回の授業の準備、そして花の注文などをしていたら、あっという間に夜中。この頃は睡眠時間が一日2時間程度でしたね。
 
“二足のわらじ”というのはものすごいエネルギーが必要だと思いますが、それだけ花への思いが強かったということでしょうか?
一番大きかったのは、「自立しなさい」と親に言われて育ったことですね。だから中学生ぐらいの頃から、「たとえ結婚しなかったとしても一人で生きていけるだけの手に職をつけたい」という思いが人一倍強かったように思います。「それでは何をしようか?」と考えた時に出会ったのが「花」の世界だった、ということですね。
 
パリに来ることになったきっかけは?
“二足のわらじ”の生活を始めて5年ほど経った頃、ふと、今の技術のままで一生食べていけるのか、自信がなくなったんですね。それなら若いうちに技術を磨きに行こうと。パリに行くことには迷いがなく、お目当ての花屋さんと連絡をとって研修の許可をもらったり、フランス語の勉強をしたり、両親に隠れて着々と準備しました。両親には「女の子なのにそこまでしなくても」と言われて相手にされず、結局、パリにも内緒で来ました。
お目当ての花屋さんが既にあったんですね。
今はもうありませんが、7区の高級住宅地の、とても繁盛していた花屋でした。

まだ言葉もままならない時にパリで初めての仕事、どうでしたか?
10人ほどいた従業員たちがとにかく不親切でしたね・・・。「何をすればいい?」と聞くと「知らない」と答えられ、ブーケを作ってみれば「あなたのブーケは最低ね」とこき下ろされ。それに加え、パリに着いて仕事を始めたのが秋。どんよりとした曇り空ばかりで、食も口に合わないし、憂鬱になることも多かったです。夜中の3時頃に市場へ仕入れに行き、それから夜の11時ぐらいまで働きっぱなしで、しかも無給。言葉ができないからアパルトマン探しや電気の契約もひと苦労。それでも、親の反対を押し切ってここまで来たからには、という意地で乗り切れたのかもしれません。
 

その店にいた1年は、それでも大きな収穫になったのでしょうね。
まずパリ屈指の高級住宅街にあり、しかも人気店だったことが良かったですね。このお店での収穫は、とにかく「たくさんのものを見て体験した」ということです。フランスにまだまだ存在する社会的な階級の違いを学んだり、普段なら足を踏み入れる機会のないお屋敷やファッションショー、豪華な結婚式を見たり、本当に洗練されたもの、そしてたくさんの種類のお花に囲まれた時間でした。さらに、このお店には併設のアンティークショップもあったので、骨董品を見極める目も鍛えられました。
 
それから一度日本に戻ったものの、フランスとの繋がりは切れずに残ったんですね。
3年間ぐらいはあるオートクチュールのメゾンのショーが行われるたびに、お花を担当してフランスに行っていました。これも7区の花屋さんで働いていたために得た仕事ですね。やはりこの世界は信頼関係が一番大きいので、技術があるだけでは仕事が回ってくるとは限りません。どんな出会いも大切にすること、人間関係が重要ですね。
 
またフランスに戻って暮らしたいという思いはあったんですか?
両親は私が戻ってきて喜んでいて、もうこのまま日本に残ってほしいと言っていましたし、私もそんなに意識していませんでした。ところがある日、急に目の下にヘルペスができたんです。お医者さんに見せたら、「これは100%精神的なもの。あなた自身がその理由を知っているはず」と言われ、体が出したこのサインから、「やっぱり私はフランスに戻りたいんだな」と実感しました。このことで、ようやく両親も納得してくれました。

また別の花屋さんにて、フランスでの再出発となったわけですね。
バスティーユにある、友人の花屋さんが倒産しかかっているので助けに来てほしい、と言われたんです。この友人は経営だけを行っていたので、花屋としての実務はすべて私一人が引き受けることに。朝、市場に仕入れに行くところから、お客様のためにブーケを作るところまで、とにかくすべてです。自分のスタイルを掴み、また、花屋としてリスクの少ない経営を実践で学んだのはまさにこのお店の時代ですね。寝る間も惜しんで働き、結果的にはこの花屋の経営を立て直すことができました。
 
 
花屋さんの経営、というのはなかなか素人には想像しづらいんですが・・・
とにかく花は生ものなので、時間が経つとダメになってしまう。だから、どれだけの量を仕入れするかがとても重要なポイントです。さらに、質が良くて高価なパリ産やニース産、イタリア産、そして比較的リーズナブルだけど質もそれなりのオランダ産など、同じ花でも値段が違います。自分がどんなお花を提供したいか、という明確なイメージを持つことも大事ですね。

そしてとうとう自分のお店を開店することになったのは?
バスティーユの花屋さんで個人的に指名を受けるケースが増えてきたので、それなら自分の会社を設立しよう、と考えました。初めは知り合いの顧客の多かったバスティーユで店舗を探したのですが、なかなか見つからず。ある日、6区のVavin(ヴァヴァン)あたりを散歩していたときに可愛い花屋さんを見つけて、入って聞いてみたら、なんと偶然売りに出しているというので、「ここにしよう」と決めたのです。でもパリ、しかも6区のこのあたりはとてもいい場所なので営業権がとにかく高い!アパルトマンを1軒買うのと変わらないような値段です。それを聞いて一度は諦めたのですが、日本の父とその話をしていたら、なんと「その営業権代を出してあげよう」と言ってくれたのです。

最初はパリ行きに反対していたお父さんにも、ついにYoshikaさんの意気が伝わったんですね・・・!
私のほうはそんなつもりはまったくなかったし、申し訳ない思いでいっぱい。でも本当に感謝しています。同時に、自分のお金だけで開いた店ではないということで、簡単に失敗できない、という責任も感じています。たとえ熱があっても、そういう親の思いを考えたら、仕事は休めないですね。
 
そしてついに2004年6月、Yoshika Yamamotoが開店!このヴァヴァンのあたりは、サンジェルマンやリュクサンブール公園へもすぐで、高級住宅地なのに小さな商店も多く、ちょっと村のような、感じの良い地区ですよね。Yoshikaさんのお店は、周囲の住民たちからどのように迎え入れられましたか?
このあたりはフランス人だけでなく、アメリカ、イギリス、イタリア、スイスなど外国人も多いですね。いわゆるお金持ち、質の良い花に囲まれてきた方が多いので、ごまかしは利きません。
最初の1年はまだ信頼されていないので、こちらのアドバイスを聞くよりも、お客様からの指示を聞く、という形が多かったですが、それ以降は、お客様も定着して、こちらの提案やアドバイスを求めてくる方のほうが多いです。日本ではやはりお客様の立場が上、という意識が強いと思いますが、こちらではどちらかといえば花屋さん(=プロ)が先生として、生徒であるお客様にアドバイスする、という関係ですね。
 
 
6区はパリで一番花屋さんが多い区だそうですね。
この店の周りにも、花屋さんはたくさんありますよ。でも、他店と競争するという意識はありません。お店では私が嫌いなスタイルはやりませんし、たとえ無意識でも私が日本人だからこそ生まれるアイデアもありますから、Yoshika Yamamotoでしか見つからないスタイルがあると思っています。だからこそたくさんのお客様に気に入っていただいているのだと思います。

自分のお店を開くにあたり、こだわったポイントは?
まず、お店の壁を黒にしました。花の微妙な色合いが映えるし、花と壁が一体化して絵のように見えるから。でもこちらの花屋では珍しいみたいで最初は顰蹙を買いましたね(笑)。それから、身だしなみの美しい花屋であること。まとめ髪で、エプロンつけて、手も荒れていて、という従来のイメージは打ち破って、仕事を終えれば普通の女性なわけですから、女性らしい身だしなみを大事にしたいですね。トゲや泥、乾燥でとにかく手が痛む商売ですから、スタッフにも仕事中は手袋をはめさせ、家に帰ったら化粧水とクリームで手のお手入れをするよう指示しています。お店にもクリームを常備していますよ。あるアメリカ人のお客様にも、「店員さんがこんなにきれいにしている花屋さんは初めてよ!」と喜んでいただきました。 
 
確かにYoshikaさん自身も、サラサラのロングヘアにきちんとネイルケアした美しい手がステキ!お花屋さんはある意味夢を売る商売。身なりに気を遣うって、大事なことなんだなと私も実感しましたよ。ところで、パリのお客様にはどんな特徴がありますか?
とにかく好みがはっきりしていて、それをきちんと伝えてくれますね。日本人以上に季節を大事にしているなとも思います。きれいな花をそろえたブーケだけでなく、梅などの枝物を取り入れる方が多いですね。小さな子供たちも自分でお花をほしがって、買いに来てくれます。小さい頃から、花が日常の一部になっているんですね。それから、日本ではブーケにたくさんの種類のお花を混ぜることが多いですが、こちらではシンプルなもののほうが好まれます。たとえばチューリップとアネモネとバラのブーケを作ったら、チューリップだけあっという間に15cmぐらい伸びてしまい、ブーケとしてバランスが悪くなる。そういうことまで考えてアドバイスしています。 

お花屋さんというと、店頭で花束を作るというイメージがありますが、他にも活躍の場はたくさんあるんですよね。Yoshikaさんを知るきっかけになったホテル・ル・ヴィニョンもそのひとつですが。
ホテルやレストラン、企業、ブティック、美容室など、1週間に1回、お花のデコレーションを替える仕事があります。それから個人宅のデコレーションの注文も受けます。お花だけでなく、お庭の世話もやりますよ。ホテル・ル・ヴィニョンのオーナーからはホテルのお花を一任されていて、なんと珍しく、上限額も設定されていないので、自分のクリエーションを思う存分追求できる、ありがたいお客様ですね。値段が高くて普段なら使えない花も、このホテルでは使うこともできるし、とにかく鍛えられます。
 
 

お話を伺っていると、本当にお忙しそうですが・・・
今はお店の目の前にあるアパルトマンに住んでいるので、通勤時間がない分楽ですが、とにかく早朝から夜遅くまで働きづめですね。市場に行く日は朝3時起き。もともと朝が弱いタイプなので、体質的にはこの仕事に全然合ってないんですよね(笑)。TVすら見る時間がないので、場所柄、有名な女優さんがお店にいらしても気づかなくて、困ることもあるぐらいです。でも仕事していることが楽しいし、常連のお客様とは友達のような関係なので、まるで家族に囲まれているような温かさがあるんですよ。先日も風邪を引いていたら、お客様のひとりがポタージュを持ってきてくれたり。

確かに、このインタビューを行ったカフェ(お店のすぐそば)では、Yoshikaさんに挨拶するフランス人がひっきりなしに現れて、驚きました!自分の経験から言っても、日本人がフランス人の中に溶け込んでいくのはそう簡単なことではないと思うのですが、Yoshikaさんはすっかり馴染んでおられてすごいですね。
フランス人はよく付き合ってみると、人情的だし、本音で付き合えるところが好きですね。今ではフランス人の友達のほうが多いぐらいです。このまま一生パリに住んでもいいと思うぐらい。
どちらにしろ、何事も複雑に考えるとどんどん複雑になるので、シンプルに考えるように自分に言い聞かせています。よく「フランス生活が自分に合っていると思うか?」と聞かれますが、自分がフランスに合っているかどうかと考えること自体が間違っているのかも。ある有名なフランスの女優さんにお店で「あなたが自分の人生を辛いと思えば辛いし、素晴らしいと思えば素晴らしいのよ」と言われたのが心に残っています。何事も自分の考え方次第、ということですよね。だから他人を批判する前に、自分を振り返ることのほうが大事だなと。

カイエ・ド・パリの読者にも、フラワーアレンジメントやお花屋さんという職業に関心を持ち、留学したいと思っている方も多いと思いますが、何かアドバイスがあればお願いします。
とにかく日本とフランスではほとんどすべてにおいてやり方が違うので、もしもこちらで学びたいのなら、事前に勉強しておかなくてもいいぐらいです。素人でもいいから、とにかく繁盛していて仕事量が多く、センスのある花屋さんで研修することが最も手っ取り早い方法でしょう。

今日はありがとうございました!
 

編集部より
花屋さんという枠を軽々と超えて、秋からは日本人向けに、フランス人のアーティストを講師に招き、フラワーアレンジメントはもちろん、お料理や帽子作りなどのアトリエも開く予定だというYoshikaさん。とにかくポジティブでエネルギッシュで、その場がパっと明るくなるような、まさにお花のような方でした。お店のあるヴァヴァン周辺は治安もよく、パリジャンの日常の顔が覗けるステキな場所なので、リュクサンブール公園を散歩した帰りにでもぜひ立ち寄ってみてください。旅行者の方も、フランスで人気だという小さなサイズのブーケを買って、ホテルのお部屋に飾ってみてもいいですね。
なお、4月28日発売の雑誌「マリ・クレール・ジャポン」でも紹介記事が掲載されるそうですのでぜひ手にとってみてください。
Yoshika Yamamoto
13 rue Vavin 75006
tel : 01 46 34 73 52
営 : 8:00〜21:00
休 : 無休(8月などはお店のドアが閉まっていてもお花を買えるときもありますので声をかけてみてください)
 

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